ドライアイス

ドライアイスを閉め切った部屋においておけば、CO2 中毒若しくは酸欠による密室殺人ができる、なんてトリックを(ドラマかなにかで)見たことがある。現実には、可能だろうか。量的な問題からアプローチしてみたい。
まず、二酸化炭素の分子量。炭素の原子量は 12、酸素は 16 として、44 。つまり二酸化炭素 1mol で おおまかに50g ということである。これを標準気体と考えると、体積は 22.4L 。常温ならば 大まかに 300K として 1割程度膨張するだろうから、簡単のために 25L とする。1m3 は 1000L だからこの 40倍、つまり 40mol で 1m3 ということだ。二酸化炭素ならば、50 × 40 でおおよそ 2kg。
密室殺人にありがちな狭いホテルの部屋を想定する。6畳間くらいと考えればいいだろうか。畳は 2枚で 1坪ぐらい、3.3m2 。6畳ならその 3倍だから約 10m2 ということになる。天井高を簡単のために 2m として、容積は 20m3 ぐらいものだろう。2kg のドライアイスがこの室内で気化した場合、二酸化炭素濃度は 1/20 = 5% 程度ということになる。実際は二酸化炭素は下の方に滞留するかもしれない。しかし、中に人間がいる部屋で空気が全く動かないというのも考えにくい。均等に混ざるとして、濃度 5% ではいささか足りなそうだ。泥酔でもさせておかないことには…。少なくとも、即死はしないだろう。やはりここはその倍以上、5kg 〜 10kg 程度は仕込み、途中で気付かれて逃げられることなど無きようにせねばなるまい。
ドライアイス 1kg というと、大まかに煉瓦よりやや大きいか…まあ、概ね同じくらいである。これが 5個乃至 10個。どうやればばれずに仕込めるだろうか…。バスルームで全量昇華させておき、ドアを開けたとたんに多量の CO2 が室内に流入、過剰吸引により昏倒してくれれば…いや、これでは確実性が低い。
結論。完全犯罪や不可能犯罪には使えません。
ここまで頭の中だけで、ネット検索の誘惑を断ち切り、電卓使用の誘惑も断ち切り、辿り着いた。前進性健忘の進行が危惧される私(おうる)の脳細胞もまだ全滅というわけでもないようだ。
一応データを補完しておく。

実際の頭の中では何故か酸素 = 18 となっていた。それは水(H2O)だ。おかげで重さの見積もりにおける大まかに、の「大」がおおらかすぎる。ドライアイスの体積については比重が 1.56 とのことで*1、1.56kg/1L → 1kg で 0.64L = 10cm × 10cm × 6.4cm 。一方 煉瓦は日本の規格で 210mm × 100mm × 60mm = 1.26L ということで、「やや大きい」はちょっと正解とは言いがたかった。ちょうど半分だ。ドライアイス 2kg で煉瓦 1個。致死量については、即死には 25% なんていう数字が頭のどこかにあって、 5% では即死とはいかない、というのもどうやら間違ってはいなさそうだ。
というより、そもそも 6畳間にドライアイス 10kg ですか。計算するまでもなく、CO2 中毒より先に、凍死しますがな。
だから何、という話なわけだが、まああれだ、大量のドライアイスで遊ぶとき*2は、いろんな意味で、充分気をつけよう。

*1:市販のドライアイスは固めるために若干の水分を含むそうである、従ってこの数字も実際とは若干ずれる可能性がある

*2:液体窒素で遊ぶときにはドライアイスなんかよりもっと気をつけよう。窒息(酸欠)とか、爆発とか。これはガチな話。(そもそも液体窒素で遊んではいけません。)