世の中には私達の知らない電池がまだたくさんある

owl2006-08-29

かんたんなまとめ:
・上新電機は早いとこ倒産して社員とその家族は路頭に迷うのがいいと思います。
・ BR-A , BR-AH , BR-AG , CR17450 , CR8L は、"A-cell" サイズ(17.0mmφ×45.5mm)の 3V リチウム電池であり、組み込み機器専用のため市販はされていない。細かいことにこだわらなければ、直径の同じ CR123A で代用可能である(ただし自己責任で)
カマデンでジャンクの電波時計を購入。\500.-(税込)。正真正銘の国内メーカー品*1、折り畳み式のソーラー併用型置き時計である。デュアルバンド自動対応。
 折り畳んだ状態。8cm×10cm×2.5cm くらい。
説明書等一切無しで若干傷もある(デザインもいまひとつ?)が特に悪い品物ではない。調べてみると、同型の商品がまだ普通に販売されており、標準小売価格は \4,515.-。電池が特殊で入手できず、その所為で動作チェックもしていないというのが「お買い得価格」の理由らしい。「電池、なかなか入手できませんよ」*2と念を押されたうえでの購入だったが、デモ機(端子にリード線をハンダ付けし、単3×2本を外付けしていた)を見る限り電圧 3V 、ということは適当な電池を叩き込んでもなんとかなるだろう、ということでチャレンジ。
案の定、あっさり解決。手持ちストックのあったリチウム電池 CR123A が同じ直径でぴったり入る。17mmφ×10mm 程度の適当なスペーサーを挟めば OK 。簡単にはアルミ箔を適量丸めてそれらしい大きさにしてやればよい。(ただし、ショートには注意。またこの場合、スペーサーはマイナス側に挟むことが望ましい。)旋盤とアルミ棒がほんのちょっとあれば立派なものがすぐ作れるだろう。
 CR123A のサイズは 17.0mmφ × 34.5mm
写真では 15mmφ バルサ丸棒を 10mm で切断し、アルミホイルで包んだものをスペーサーとして使用。電池と接触する面は若干面取りの必要がある。当然セルサイズが小さいので寿命はそのぶん短くなる(後述の公称容量で約 7割程度)が、もともと電池寿命が 7年もあるということなので、CR123A でも 5年弱は保つ計算になる。こんな感じで全然充分。(ということで、カマデンさんにも御報告。在庫はまだ 10個ぐらいあったはず。欲しいかたは蒲田へ go 。)
あまり物事にこだわらないタイプの人種ならば、マイナス端子側のスプリングを引き伸ばすという方法も選択肢に入るであろう。ただし、お薦め度は更に半減する。

【後日追記】比較的入手しやすいバッテリスペーサとして、ネオジムマグネットを利用するという方法もあるので御紹介しておく。磁石が電池に吸着してくれるので扱いやすくなる利点がある(※ただし端子は錫メッキ燐青銅板などのことがあり、この場合は磁石はつかない。)


左側は 10mmφ×3mm厚の磁石を3枚、右側は 5mmφ×高さ 5mm の磁石を 2個、それぞれ使用している。磁力で保持されるのでスペーサーとしての厚みは 8mm 程度以上あれば大丈夫。
勿論磁石ならなんでもよいかというとそういうわけではなく、表面のメッキにより良好に通電するので、絶縁体であるフェライト磁石(黒いもの)は NG 。また、アルニコ磁石なら大丈夫だとは思われるが、正味な話、勿体無い。
なお、ネオジムマグネットの強大な磁力により動作に影響はないのか、というと、機械式時計ではないので特に支障無いもようである。標準電波の受信もフルスケールでできた。


…さて、この本来の「入手困難な電池」というのはなんなのか、というと、型番が「BR-AH」というもの。一見して「電池の型番」らしくない。勿論初耳である。電圧が 3V ということはリチウム系一次電池(充電式でない電池)の一種なのだろう。円筒形で単3 よりひとまわり太く、少し短い*3。検索してみると、海外のメーカーのページが掛かった。「BR」というのは Poly-carbonmonofluoride Lithium Batteries つまり「フッ化黒鉛リチウム電池」だそうだ。公称電圧 3V 。この「BR」系電池の一種である BR-AH は特殊な計測機器・通信機・センサー機器などに使用する電池で、民生用として市場販売はされていないものらしい。(通販でならば入手可能なところもあるようだが。)
ところで、一般にリチウム電池というと「CR」なわけだが、同サイズで公称電圧も等しい規格のものがあるようだ。

というのがそれ。こちらも一般用途への販売は無い。…が、秋葉原ラジオ会館稲電機東京ラジオセンターミマツ音響などでは購入可能な模様。(しかし、いずれも単セルで軽く \1,000.- を越える。どうかすると実売 @200.- 以下で入手できることもある CR123A と比較すると…。)
もう少し調べてみる。「BR-AH」とはそもそも「BR-A」*4の高容量タイプということらしく、メーカーによっては「BR-AG」と呼ばれるものもあるらしい。では、電圧も外寸も同じ、恐らくは終止電圧も同じ(2.0V ないし 1.8V)、公称容量も同じような値、用途も(産業用途という点では)似たようなものに見える「CR17450」と「BR-A」の違いはいったい何なのだろうか。
そのこたえは、↓このへんの PDF にあった。(上のほうがズバリそのもの)

かいつまむと、BR のほうが自己劣化率の低さなど保存性・安定性に優れ、低負荷で長期間使用し続ける計測機器・メモリバックアップ・信号機器・医療機器・非常用品などに適するということらしい。使用温度範囲が広く、相対的に過酷な環境に強いのも BR 。*5一方の CR は高出力にも対応し、瞬間的な高負荷にも強いのでカメラ・ライト・通信機器などに適するようだ。趣味の工作で使用する程度ならばどちらでもさほどの違いは出ないであろう。…なるほどそういうことか。
でもって調べているうちにわかった。「BR」系電池といえば、以前には電子工作用途でずいぶんお世話になっていた。すっかり忘れていただけだった。それは、BR425 と BR435 。釣り浮き用電池である。…懐かしすぎる。昔は「リチウム電池」といえばこれだった。非常に軽量・低比重・コンパクトで、なおかつ 1本で LED をドライブできるので、大層重宝した。…そうだったか!



因みに、我が家にやってきた「初電波時計」である \500 時計は、順調に作動し続けている。置き場所(と向き)によっては室内でもしっかり標準電波を受信してくれている。取扱説明書もメーカーサイトから PDF にて入手できた(ここから「クロックの取扱説明書」→ 機種名選択)。
それにしても、どういう理由でこんな特殊な電池を採用したのだろうか。…謎だ*6

■ まさかとは思うが、念の為の追記

保安機器などの電池交換は訓練を受けた有資格者の手により実施されるべきであって、素人が軽々にすべきことではない。上掲の、完全に民生用途の、人身の安全等に関わらない家庭用電化製品である置き時計ならいざ知らず、通常 BR-A はどこかから適当に調達してきて適当に交換できるものではない。(そういう意味合いからしても、CASIO が置き時計にこの電池を採用した意味がよくわからないのではあるが。)
また、電池にリード線などを半田で直付けするのは、腕に自信があってもやめたほうがよい。アルカリやリチウムなどの電池には内部でガスが発生した際の防爆用として安全弁が内蔵されており、半田付けなどで過熱するとこの弁を破壊してしまうことがあるらしい。*7 重大事故に直結します、絶対にやめましょう。


ともかく、すべては飽くまで、自己責任で。

*1:ただし製造は中国

*2:勿論、メーカーのサービスに持ち込めば交換というかたちで電池を入手することは可能だろう。いくら取られるのかは知らないけれども。勿論 CASIO であるから、修理用性能部品の取り寄せという形でサービスセンターに取り寄せることも可能だと思われるが、経験上 CASIO の場合はいくら待たされるかわかったものではない。

*3:17.0mmφ×45.5mm 。
因みに単3(AA-cell)の寸法は 14.5mmφ×50.5mm 。
参考:http://www.madlabo.com/mad/gid/research/batt/
更に因むと、単3電池の半分の長さの「CR1/2AA」というセルもある(バッテリバックアップなど組み込み用途に使われるものらしい。ごく稀に秋葉のショップでも出物があったりする。)

*4:つまり「A-cell」の「BR」版ということだ。「A-cell」とは単1電池を「D-cell」、単2 を「C-cell」、単3 を「AA-cell」と呼ぶその体系(=アメリカ式)の「A」である(このへん(その翻訳)を見ても、サイズ的に合致している)。
因みに「A-cell」は海外では比較的知られている規格のようだが、「B-cell」はアメリカでも存在しないらしく、ひとつの mystery として扱われているフシがある。真相は定かではないが、(日本での A-cell の扱いと同様に)単にポシャっただけか、あるいは、真空管時代に「B+」がプレート電源(電圧)を意味し、「B Battery」でプレート用電源電池(要するに真空管を温めるための電源電池)を意味していたので、紛らわしいから規格として欠番にしたという説があるようだ。いずれにせよ定かではないし、ABCD で電池の規格を呼称することが日本では一般的でないのでネタとしてもいまいち。
CR123A の「A」も「A cell」の A (の名残り)だと思われる。

*5:なお、BR にも CR にも耐高温型が存在し、その使用温度範囲はほぼ同じ。

*6:概ね筐体デザインの関係(バーアンテナと電池を同形状のスペースにシンメトリックな配置をするというアイデアの具現化)だろうけど。
単3 サイズ 3V リチウム(CR14500 など)を使用しなかったのは技術者の最低限にして最大限の良心だろうか。

*7:最近(2009年以降??)製造された電池の場合だと、導電性ポリマーを応用した過電流防止ヒューズ機構が内蔵されているという噂もある。この場合、電池端子に半田付けを試みるとその熱でヒューズが作動し端子が絶縁される(復元不能)。「安全ではある」。…が、電池として使用不能になる罠。