しばしふける

浜松町駅から乗ってきたその高校生は、やおら本を取り出すと、傍目にも感じ取れる気合いとともに読み始めた。その青い表紙の分厚いハードカバーは、話題の少年魔法冒険活劇のシリーズ最新刊にして最終巻であった。読書も既に終盤にさしかかっているらしく、残りのページはあと数mm である。歯列矯正治具が覗くのは、集中している証拠であろう。車内で一気に読み切ってしまう算段か。
などと思っていたところ、突如栞をページに差し、本を閉じると慌ただしく鞄にしまい、かわりに水筒を慌ただしく取り出し、ごくごくと飲んだ。喉がからからになるほど集中していたのだろう。最後に残したチャプターが気になるのか、少し落ち着かない様子で見渡すその目は心なしか潤んでいるように見える。水筒を鞄に慌ただしくしまうと、鞄についているマスコットのぬいぐるみを所在なげに撫で、そして、その娘は、慌ただしく五反田駅で降りていった。
1行でまとめると、
『チャプター』って、カワイイよね♥
読書には興味がないが、読書している人を見るのは楽しい。
なお、情報をぼかすため上記には嘘を書いた。乗駅・降駅とも最後の 1文字しか合っていない。そしてともに漢字 2文字の駅。調べればすぐにわかる。