善行か、はたまた残虐行為か 其乃弐

セミですら、やらかすのだ。はっはっはっはっはっはっはっはっは。会いたかったよヤマトの諸君。(それは「ですら」ではなくデスラー
余談だが「デスラー」って「○○です」が口癖の人みたいだよね。ただし無抑揚で読む。
…余談過ぎる。
かといって本題もたいしたことがない。
道端に落ちていたのは、仰向けに力無く藻掻くアブラゼミ。その羽は開ききらず、縮れて歪んだまま固まってしまっている。その傍ら数cm にはセミの抜け殻。つくづく私(おうる)は下に落ちているものが好きなのだろう、と言われかねないのだが、それは仕方ない、上には滅多にものが落ちていないからな。
セミと抜け殻について考察すれば、つまりこうだ。このセミ君(セミさんかもしれない*1)は迂闊にもしっかり爪のかからない人工物につかまって脱皮を始めてしまい、いちばん肝心な羽を広げるところの手前(察するに、胴体、なかんずくお尻の先を、殻から引っこ抜いたときであろう)で落下してしまった、とそういうわけだ。セミに限らず、大抵の変態昆虫(ここでは変態と言ってもアブノーマルのほうではない。メタモルフォシスのほうである)は、羽化のあとに、羽に体液を送り込んで広げ、広がった状態で固まるのをじっと待つ。昆虫の羽は、蝶、トンボ、セミもふくめて、種類によっては決して頑丈であるという感じがしないが、大きさや厚さ、そして重さなどを考えれば、ものすごい強度を誇る、立派な外骨格である。そしてこれは「骨格である」という比喩そのままに、一度固まったら変形さすことができない。つまり羽化の数時間は、昆虫の成長過程においてこの上なく重要なもののひとつであるというわけだ。
人間のように邪念を持たぬはずのセミですら、人生のクライマックスにおおポカをやらかす奴もいる。
さてどうしたものか。このまま仰向けで日に曝されれば数時間の命だ。そうでなくとも、猫やカラス、スズメにまで、生きたままそのデリケ(やめなさい)。少し考えて私(おうる)は踵を返した。つかまる元気があるなら助けよう。人差し指を差し出すと、そのセミは指を掴んだ。これだけ元気なら大丈夫だ。私(おうる)は通りの反対側の鬱蒼とした庭から伸びる木の枝にセミをとまらせた。幾度か、飛んで逃げようとし、地面に落下する。早々に気付け。おまえは、おまえの粗忽な判断により、最早飛びたくても飛べんのだ。そして、飛ぼうなどと思わなければ、静かに木の幹にでもとまっている限り、少しは長生きもできるであろう。
彼等(彼女等、も含むわけだが)にとって、その少しの長生きが、一体どういう意味を持つのかについては、私(おうる)にはよくわからないけれども。
今のうちに謝っておこう。私は間違ったことをしましたと。

*1:元生物屋なら確認ぐらいしろよ>自分
というか、掴んでも鳴かなかったからセミさんで FA 。