「ドレミの歌」の「Si(シ)」は何故に「Ti(ティ)」か、というようなお話
(思いっきり私的でしかもマナー違反気味のメモ)
名曲揃いの「サウンド・オブ・ミュージック」の中でもおそらくもっとも有名なのではないかという「ドレミの歌」(原題:Do-Re-Mi)。日本語の歌詞で小学校の音楽の教科書にも載っている。好き嫌いはともかく、非常に多くの人が知っているこの曲であるが、…何度か映画を観て、英語版の歌詞を覚えるぐらい聴いた人ならばたぶん感じた違和感、それは
♪ Ti (tea), A drink with jam and bread.
の部分。「なんで『シ』でもなければ『スィ』でもないの?」というところ。日本語版の歌詞(でもっとも有名なもの)は「♪『シ』はしあわせよ」と、『シ』になっている。 どういうことなの?! …実は、これにはちゃんと理由があって、これを mixi の日記に書いておられる方がいた。
→ http://mixi.jp/view_diary.pl?id=22702996&owner_id=79399
へぇ〜へぇ〜へぇ〜へぇ〜へぇ〜へぇ〜へぇ〜。
mixi を閲覧できない人*1や将来的に閲覧できなくなったケース*2を想定して簡単に内容を書いておくと、
Do | Re | Mi | Fa | So | La | Ti | … | これが 7音階の音名、でもって、 | ||||||
Do | Di | Re | Ri | Mi | Fa | Fi | So | Si | La | Li | Ti | … | これが 12音階の音名 |
ということで、ドイツ音名で言うところの Gis と H を区別するために Ti だという話。歌詞を「tea」にしたい為に敢えて訛ったとか、そういうことではなかった。 これは謂わば「アメリカ音名」とでも呼ぶべきものであって*3、我々が習った階名の発音に一番近いと思われる「イタリア音名」とは極端な話「別物」なわけである。
…
とまあ、こんな話であるが。
ちょっと一瞬は「すっげー」とか思ったし、何故これは普及してないのだろう(少なくとも、どうしてほとんど知られていないのだろう)? と思ったりもしたが、よくよく考えればそんな面倒臭いことをしなくても、実用上はほとんど問題がなかった。所謂「移動ド」で階名読みをするのなら半音はほとんど意識せずに済むし、「固定ド」で音名読みをする際にも、読む際には「シャープ」「フラット」を言わず「ドレミ」で読んでしまって違和感も問題もない。(単なる慣れの問題。)そして、ただの譜読み、音取りの段階でそこまでの厳密さを求めるのなら、ドイツ音名で読めばいいのだ。そして、上掲の 12音名は完璧に見えて、実は大きな問題を抱えている。ダブルシャープ・ダブルフラット(重変・重嬰)をどう読むのか、というところである。
因みに軽い参考として追記しておくと、合唱での音取りの際のやりかたには、合唱団、若しくは指導者・指揮者によって以下のようなバリエーションがある。
- 階名や音名で音取りはしない。いきなり歌詞で音取りする。
- ラララやアーなどのスキャットで音取りをする。
- ドイツ音名で譜読みをする。
- 固定ドの「ド・ディ・レ・リ・ミ・ファ…」で読む。
- 固定ドの「ド・レ・ミ・ファ…」で、変化記号(#・♭…)は読まない
- 移動ドの階名で譜読みする。臨時記号(#・♭…)は読まない
- 固定ドの「ハ・ニ・ホ・ヘ…」で、変化記号(変・嬰…)は読まない(笑)
- :
- その他、まだあるかもしれません
草の根合唱団などの場合「どれでやってもいい」となっていたりするので音取り(歌詞なし)のアンサンブルは結構カオス。
閑話休題、ダブルシャープとかそのへんの話。
「C##」(Cisis)の音符は、ト音記号の譜面上では例えば下第一線上に置かれる。これを「Re」と読まなければならない矛盾は、中途半端な厳密性を求めるから発生するものである。ダブルシャープやダブルフラットなんてレアケースにいちいち目くじらを立てるのがどうか、ということも言い得て妙だが、そういう曲者をいかにニュートラルにパスできるか、は、実はかなり重要なポイントである。そこでちょっと待ってよ、とか、特殊ルールを、とか言っているとモチベーションががた落ちになる。その点、音取りにそんな厳密もなにもあるか、取れりゃいいんだからとりあえずドレミで読んどけ、というやり方の場合、こうした問題は生じない。*4
もっと細かい話をするなら、例えば D♭ と C# は「違う音」である。平均律の世界では物理的に同じものとして扱うが、たとえ平均律だろうと物理音階だろうと、思想的には「違う音」である。これを区別できない「厳密性」とはなんだろ、という話になるわけ。だったら最初からドイツ音名でやっとけ、ということ。
「ド・ディ・レ・リ・ミ・ファ・フィ・ソ・スィ・ラ・リ・ティ」がほとんど普及していないのも、きっとそんな理由だろうと推察(てか邪推)。