迷子

夜、車の前を横切る危なっかしげな動物の影。大きさ的には、ドブネズミを 2周りか 3周りくらい大きくしたような程度に見えた。ただし、毛は長く、加えてその動きには敏捷性というものが一切感じられない。
果たしてそれはミニチュアダックスであった。ノーワイヤーで、夜も更けたこんな時間、ひとけのないこんなところに、かような犬が闊歩している理由があるとしたらそれはせいぜい 2つ。捨て犬か、迷い犬。
人なつっこい反応は流石にミニチュアダックスである。与えうる食糧をなにひとつ持っていないことを悟ると流石に反応はおとなしめになったが、今度は安心オーラを全開にしてきた。しまったなあ。とりあえず寒そうではあったので、体温をわけてやる。普段は無駄で非効率なだけの高体温もこういうときにはほんの少々だけ役に立つ。
結構疲れているのかもしれない。犬には詳しくないので判らなかったが、ひょっとしたら結構、歳をいってる子なのかもしれなかった。数分ほどで私に関する様々を理解した様子からすると、賢いことには違いがない。では何故、今こうしてたった 1匹で彷徨っているのだろうか。あんまり嫌な想像はしたくないが、だからといって何をできるわけでもない。
「車には気を付けるんだよ。わかるな。…わかんないよな。じゃあね。」彼は振り向かなかった。大丈夫、ミニチュアダックスほどの犬ならば、飼い主が八方手を尽くして、見つけてくれる。君はこの夜、暖かくして凌げる場所を見つけるだけでいい。それくらいは頑張れ。
車には轢かれるなよ。