併走

とある団地脇の車通りに、植え込みから 1匹のキジトラがひょこっと顔を出した。彼にしてみれば、ちょっとしたショートカットのつもりだったのだろうが、確認もせず通りへと降り立ってしまったのは流石に軽率だったようで、案の定、人が歩いてきてしまった。慌てて団地方向の脇道へと引き返す。しかしながらそこにはちょうどその道へと曲がろうとしていた私(おうる)が居合わせた、というかまあ、普通に歩いていたのだが、まるで挟撃作戦にあったかのような状況に追い込まれたキジトラは軽いパニック状態となり、猫のくせに「脱兎の如く」脇道を走る。状況的には私(おうる)の目の前をすり抜けるかたちである。うまいことすり抜けさえすれば彼の危機は去る…はずだった。私(おうる)がおもしろ半分に(しかも完全にペースを合わせて)走るような奇特な人間でなければ。
小柄だがお世辞にもスマートとは言えない彼には、道の脇に高さ 60cm程で続く植え込みまで咄嗟にジャンプするだけの身体能力は無かったらしい。この植え込みが切れるのは先の公園まで数10m、所要時間にして数秒間。植え込み下の「壁」と私(おうる)の間わずか数10cm巾を走る、短くも長い「パニック・ラン」は続いた。
やっとの思いで公園に逃げ込んだ彼は速度を落とすことなく反対側の出口まで駆け抜け、そこで走るのをやめて「何するんだよ!」という顔でこちらをずっと睨んでいた。…たぶん。暗くてそんなことわかるはずもないのだが。