としこしやきそば

owl2006-12-31

年末らしい賑わしさではアメ横にも負けないのではないかというような近所の激安スーパーの帰り、商店街を抜けた先の踏切に、東海道線が立ち往生している。
電車は回送のようだが、ただそこになんとなく停まっているという雰囲気であり、踏切警報は単調にただ鳴り続けている。他の電車が颯爽と駆け抜けてゆく中、麗らかな冬の日だまりに、その編成はただ沈黙をしている。
人身や物損では、ないようだ。
私(おうる)の場合、渡るのはこの踏切でなくてはならないという理由は特になく、ひとつ隣の跨線歩道橋でも、もうひとつその先の踏切でも、遠回りにはならない。ただなんとなく、自転車で通っていた頃のルートを、惰性で踏んでいる、それだけのことである。
踵を返そうとしたそのとき、…正確には「半分」踵を返したとき、踏切すぐ脇の店がふと目にとまった。古いタイプの駄菓子屋、というか、なんと言うべきか。縁日で出るような鉄板系のコナモノを常時出している、そんな店。焼きそば \250 。いつも横目に通過するばかりのこの店でふと、焼きそばを買って帰ろう、そんな気になった。
いささか迷惑そうに腰を上げ、無言で、お世辞にもうまそうではない焼きそばを不器用に詰める店主。縁日の屋台のような威勢の良さ・手際の良さは、そこには存在しない。焼きそばをパックに詰めるために必要な恐らく日本記録級の時間を過ごしたのち、お金を出し、どうも、といって受け取ると、今まで無口だった店主が口を開いた。「踏切渡るなら、こっちでもあっちでも、踏切あるから。もう 10分以上もああしてとまったまんまだよ」 あれ何なんだろうか、と訊くと「わかんないけど」…と、そうこうしているうちに、小さく警笛が鳴った。いささか拍子抜けしながらも、別ルート開拓は先の楽しみとすることとし、もういちど、どうも、といって、半分返した踵を、戻した。ここで年の瀬の挨拶をするほど私(おうる)は粋ではない。
静摩擦係数を克服した東海道線は、徐々に加速して、去った。窓越しに頭を下げる車掌が目に残ったが、結局何だったのかはわからない。
そう。そういえば今日は大晦日なのであって、大晦日といえば年越しそば。商店街では揚げ物屋・肉屋・惣菜屋・小料理屋…の前にそれぞれエビ天・かき揚げが山と積まれ、昔ながらのうどんそば販売店が年に一度の活況を呈しているようだった。そんな中でもあの踏切脇 − 商店街の外れ − のあの駄菓子屋?は、いつ来るでもない客をただ淡々と待っていた。
焼きそばだって歴としたそばには違いない。これを私(おうる)の、今年の年越しそばとしよう。
夜までとっておくと傷みそうな気がしたので帰宅後すみやかに食べた。キャベツはまだ固く、麺はゆるい、案の定、うまくはなかったが、あとにかけてくれていた市販品(明らかに業務用ではなかった)のソースと、今日日ありえないほど真っ赤な紅生姜が、うまい具合に効いているようではあった。