若い君たちは知らんだろうが

…とかなんとか言ってみたけど、実を言うと私(おうる)もリアルタイムで知っているというわけではない。(別に若ぶっているのではなく、私(おうる)の場合は単に不勉強だ。)
「パークレン」とは「テトラクロロエチレン」(Cl2C=CCl2 ; C2Cl4)のことであり、たしか商標である。においは独特だが、「ちょっと昔のクリーニング屋さんのにおい」といえばわかるひとも多いかもしれない。

その昔、クリーニング屋さんは勿論、工場などでもガンガン使われていた。*1 そしてじゃんじゃん垂れ流していた。なにしろ、ドラム缶に直接蛇口を取り付けて、油で汚れた手を洗うのに使用していたのだそうだ。床に流れたその VOC は、コンクリの隙間から土壌に直接しみこみ、また、下水とともに地下に入り、水と混ざらずに滞留しつつ、地下水流に乗ってじわじわと土壌中に浸潤、拡散した。
無理もない。誰もその物質の有害性など知らなかったのである。揮発性が高く発火性も引火性もなし、水とほとんど混ざらない(=吸湿しない)、皮膚刺激もない、そして油をよく溶かすがゴムなどの樹脂材料を冒しにくい。洗浄剤としてこんな素晴らしいものはない*2。…いや、なかった。
今でも街中で、「夢の物質」転じて「悪魔の物質」の痕跡を見いだすことがある。

200L、いや 1缶でそれだけだから恐らくその数倍以上、もっと大量の有機塩素化合物。その大半は今も地中に眠っている。町に必ず 1軒はあるクリーニング屋さんのその全てが、同じようなことをしていた。
しかし、だからどうというつもりもない。昔のディーゼル車の排気ガスは、吸うとほんのり甘味を感じた。地上最強の毒物が生成されるとも知らず焚火にくべたプラスチック。知らなかったから、という理由で、みんな何気なく、最高にひどいことをしている。 得てしてそんなものだ。

*1:一般用途ではレンズクリーナなどとして優秀な性能を発揮していた。

*2:事実、有機塩素系溶剤が開発され、普及するよりも以前は灯油やガソリンがドライクリーニングに用いられていたそうで、引火や爆発の事故が後を絶たなかったとか