私はそれを受諾する

時間が時間なのでという以外それらしい理由もないまま、身を横たえる。10秒ほど経つと、後頭部のあたりを中心に、清流のような音が響く。それは具体的に後頭部だと判っているわけではない、がしかし、頭の中以外のどこかから聞こえる音ではない。やがて流水音はなにか別の、地下洞窟に響く重低音ノイズのような、しかし音ではない何かに変化し、色でいうと瀝青色、感触でいうと温もりのない綿のようなものとして全身を包み始める。ともすればこの感覚はそのまま増大の一途を辿り、高濃度で私を覆い尽くすだろう、そして私はそれを受諾する。それはそれで構うことなどない、と思う。
何かがどこかで膨らむような感覚。音の無い世界でそれが溶けるように破裂すれば、全てが終わる。

やがて聴覚は正常に近づき、パソコンのファンノイズを捉える。皮膚感覚も急速に正常を取り戻してゆく。私は全身の血の巡りを確認し、次に時計を確認する。大した時間は経過していない。勿論、夜はまだ明けていない。