格好悪くてさ。

owl2006-03-15

今更、改めて挨拶なんてできない。
すぐに、ここではなにもできない、と思い知った。わかっていながら、慣性とか惰性とかそういうようなものに身を委ね続けた。なにも生み出すことができない、と悟った。わかっていながら、身を切られる思いに耐えた。なにももたらすことができない、と痛感した。わかっていながら、へらへらと笑い続けた。なにも与えることができない、と運命づけられていた。わかっていながら、自分のほうも静かに殻を閉ざした。ただ磨り減らしひたすら消耗するだけだと気付いていた。わかっていながら、これは休養期間なのだとうそぶいた。なにも言うことができない、と身に沁みた。わかっていながら、いつ最後通牒を突きつけられるんだろうかとおびえながらも漫然と、ただ漫然と生きてきた。 そう、わかっていながら……
だから、もういいんだ。
そこから先は、もう簡単なことだった。冷徹でいたかった。理知そのものでありたかった。ただの道具、機械であるべきだった。でも、それすら、実際には中途半端だったんだ。
だから、全て私がいけない。悪いのは私のほうだったのだから、飾りのついた言葉なんて要らない、フェードアウトがいちばんいい。それぞれの中に、トータルでぎりぎりなにかしらプラスならば、それ以上はもう望みもしない。…そんな私が、今更どの面を提げてみんなの話をきけばいい?
つらくなるだけだ。私が。主に、私が。
「なにもできなくて、ごめん。」 そういう言葉を発したところで、私の後悔と遺恨と懺悔は、最早どこにも届くことはないのだ。そんな諸々の感情を奥歯でかみしめ、すりつぶしながら、私はひたすら歩いた。月が綺麗だから、上を見てただ歩いた。鼻水が、止まらない。
そう、ほんとうは、もうこれ以上、みっともないところを見せたくなかっただけなのかもしれない。
 
老兵は死なず、ただ消えゆくのみ。 …でも、現実はそう格好良くはいかない。格好悪くて、惨めで、はいつくばるしかなくて、そして情けなくて。 だからせめて、今日というこの区切りの日もいつものとおり、月明かりの中をひとりでとぼとぼと帰らせてください。