老舗の刃物屋さんがサイドビジネスとして切る鍵

それはまさにプライドの為せる業とも言え。
「合鍵作製を…」「どういった鍵です?」「あ、普通の…えと248を1本です。」「ああでしたらすぐできます、525円です。」
作業を眺めながら(というか、音を聴きながら)ふと思う。「248(ニーヨンパ)」はいわば「業界用語」だ。大手合鍵メーカー「FUKI」での美和ディスクシリンダー用ブランクキ−の型番が「H248」なので、日本においてほんのちょっとでも鍵に関わったことがある人には「248」で確実に通じるわけだが、一般に浸透した言い方ではない。美和がどうとか公団がどうとかいちいち言うよりそのほうが通りがよいのでなんの気無しに使ったが、こちらの(鍵に対する)理解度をその一瞬・一言で看破されていたのかもしれない。だからこそ複製からの複製であることに関してもなにも言わなかったのかもしれない。終了後に元鍵を指して「(機械を)速く動かしちゃうとガタガタになるんですよね」なんてことを付け足されたのも、私(おうる)の素性を見抜かれていたということなのかもしれない。(因みに普通の人には「速く動かすと…」がなにを意味するかわからない。鍵を切ったことのある人間にしかわからない。私(おうる)は私で「そうなんですかー」などとすっとぼけてみたわけだが。)
ともかくその合鍵は、元鍵よりもむしろよい仕上がりへと、見事にリカバリされていた。なによりその適度なタッチアップには脱帽。ひとりで勝手に脱帽。
まあ当然といえば当然か。合鍵作製と刃物の研ぎ、どちらが大変(≒技術的に上位)かといえば、後者が圧倒的にハイレベルであるに決まっている。(別に私(おうる)が、前者のスキルを有し後者を持たないからそういうわけではない。さらに別の視点から言えば、サービスの質とか意味も両者は本質的に異なる。)
私(おうる)はそのとき、勿体ないほどの一品を手にしていたのかもしれない。